CHICK COREA TRIO featuring CHRISTIAN McBRIDE & BRIAN BLADE

チック・コリア(p) クリスチャン・マクブライド(b) ブライアン・ブレイド(ds)

ファンタジックな音と笑顔に隠されたチック・コリアの怖ろしいまでの音楽への執念。

今年もチック・コリアが名古屋にやって来た。今回はトリオとソロの二種類のフォーマットで計4本のステージを披露してくれた。例年よりも注目度が高く、あの宇多田ヒカルもお忍びでわざわざ東京から名古屋に見に来たほどだ。いま、みんなが彼に注目する理由とは何だろう。熱心なジャズ・ファンにとってみれば、チック史上最強と噂される新トリオがどれ程のものか、この目で確かめたいという一点に違いなかった。 ほぼ定刻どおり。3人が姿を現す。音を聴くよりも先に誰もが驚いたのは、チック・コリアの激ヤセぶりである。30歳も若いふたりのメンバーと対峙するには、身体を絞ることが不可欠だと判断したのだろうか。80年代頃の体型に戻っている。ざわめく観客に向かって開口一番、「1曲目はチューニングの模様をお聞かせしよう」と笑わせる。いつもの明るいチックだ。本当の1曲目は名トランペッター、ケニー・ドーハムが50年代に書いた曲「Lotus Blossom」。物憂げなケニー・ドーハムの演奏とは異なり、チックは快活で、無邪気な演奏を聴かせる。ピアノのタッチも減量した分だけ軽い。一方、若いふたりは、しかめっ面である。チックのアレンジに手こずっているのか、2曲目の「Scriabin Prelude #9」は終始譜面と睨めっこ。確かにチックのアレンジは複雑だ。親しみやすく、聞いた感じは耳に心地良いが、細かい仕掛けが至る所に隠されているので演奏者にとってはキツい。彼らのような手練れであっても最後まで気が抜けないのだ。そんなふたりの奮闘を尻目にチックはひたすらこの瞬間に没頭して笑みを浮かべている。この新しいトリオがお気に入りの様子だ。観客だって彼らの奮闘ぶりには気付かない。快調に疾走する演奏に、すっかり夢中になっているのだ。 ライブ本編の最後を飾ったのは、チックが60年代後半に録音したピアノトリオの名盤『Now He Sings, Now He Sobs』のタイトル曲。若いふたりのメンバーが生まれる以前の曲だが、まったく新鮮さを失っていない。チックの音楽が時代のムードとは無関係に存在している証拠だろう。いま、世界の音楽シーンを眺めると時代のムードを歌った音楽ばかりが氾濫している。良いモノもあれば、そうでないモノもある。けれど、時代と無関係に存在できるだけのパワーを持った音楽はあまり生まれなくなってしまった。先日、あの宇多田ヒカルが音楽活動を休止すると宣言した。にもかかわらず彼女は自身のツイッターで「目指すところはチック・コリアですな」とつぶやいている。彼女の真意は測りかねるが、チックの音楽の中にこそ、今、世界が渇望している音楽の姿があるに違いない。 それにしても、彼のライブを見たあとの疲労感はなんだろう。きっと彼の音楽は、クリスチャン・マクブライドやブライアン・ブレイドに要求したものと同等の緊張感を観客にも強いるのだろう。親しみやすいアレンジでコーティングされているので気付かずにいるが、きっとそうだ。彼の音楽は、ジャズクラブにいる誰も休ませない。もちろんチック本人をも。だからこそ音楽にパワーが出る。時代の流れとも無関係でいられる。ひょっとすると、チックの複雑なアレンジは、この緊張感が緩まないようにと彼が細工した結果なのかもしれない。う〜む、やはりチックは怖い。


date:2010.12.06 1ST Stage
text by MITSUO NAKAI

Lee Ritenour 50th Anniversary Celebration -6 STRING THEORY-

リー・リトナー(g) ラリー・ゴールディングス(org) メルヴィン・リー・デイヴィス(b) ソニー・エモリー(ds)

還暦前にして前進することをやめない不屈のギタリスト!

70年代から80年代にかけて、世界中を呑み込んだフュージョン・ブームの寵児、リー・リトナーもあと2年で還暦を迎える。随分と時間が経ったものだと感慨深い。この夜は、オルガン奏者のラリー・ゴールディングスを迎えてのライブ。リトナーにしては珍しい人選だなと思いながら開演を待つ。親日家でもある彼は、何を演奏すれば日本のファンが喜ぶのかを熟知している。じつは今回、関係者にお願いして、この日のセットリスト(演目表)を事前に入手しておいた。彼の手の内を知った上で、何をやってくるのかを見定めるのが狙いだったが、なるほど、これは盛り上がりそうな選曲だ。あとは還暦を前にした彼がどんなギタープレイを見せてくれるのか、それが見所である。 セットリストの1曲目は、リトナーの大ヒット曲「キャプテン・カリブ」になっている。期待に胸を膨らませてステージにあがる彼を見送る。あれ? ギターが違うゾ。「キャプテン・カリブ」を演奏するギターとは違うタイプのフルアコ・ギターを抱えている。待ち構えていたよりも、ゆっくりとしたテンポの1曲目が始まった。フレディ・ハバードの「ポヴォ」という曲である。直前になって予定を変更したようだ。1曲目にしては、ずいぶん地味だ。反応も微妙だが、リトナーはお構いなしにソロに没頭している。わりとオーソドックスなジャズ的なアプローチだが、途中からお得意のオクターブ奏法を駆使してバックのメンバーを煽っている。とにかくソロが長い。終わってみると12分の熱演。ライブの1曲目にしては、ちょっと胃もたれがする。2曲目の「ストーン・フラワー」ではナイロン弦のギターに持ち替え、ストロークを多用したソロを披露。3曲目の「ウェス・バウンド」は、再びギターをフルアコに持ち替え、ジャズギターの祖ウェス・モンゴメリーに捧げた。以降も1曲ごとにギターを持ち替え、コンセプトの違うソロを納得するまで存分に弾き、演奏時間は軒並み10分を超えた。4曲目ではジミー・ペイジやガンズのスラッシュが愛用したレスポールを持ち出し、歪んだ音でロックスターばりのソロに挑んだ。ジャズの語法と不慣れなチョーキングのミスマッチが新鮮だ。リトナーは、こんなギターも弾くのか! とにかく、曲ごとに表情を変える今夜のリトナーのギター。過去の曲もアレンジを変えてきている。ギターによるインストミュージックのスタイルは、出尽くした感も否めないが、今夜のライブを見て、まだ、こんな可能性があったのかと驚いた。考えてみれば、フュージョンとはギタリストのためのムーブメントだった。その舞台で王道を突き進んだリトナーが、いま新たなギター道を切り拓こうと模索している。フュージョン・ブームが去って20数年と言われるが、リトナーは諦めていないようだ。 開演直前の曲目変更で始まったこの日のライブ。じつは、もう1曲重要な変更があった。セットリストの最後に書かれていた「リオ・ファンク」である。この曲は、リトナー最大のヒット曲で、今回のツアーでも他会場では演奏していたのだが、この夜、彼はこの曲を演奏しなかった。客の喜ぶ顔よりも、ギタリストとして優先しなくてはいけない何かがあったのだろう。あの、とてつもなく長いソロが、それを物語っている。どうやら彼にとって、名古屋での9月30日は、特別な夜だったに違いない。たとえ観客が誰ひとりとして気付かなかったとしても。


date:2010.9.30 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI
photo by Yuiko Kano

Tito Jackson 〜A Tribute to Michael Jackson〜

ティト・ジャクソン(g,vo) ニコール・ジャクソン(vo) カルヴァン・ベネット(sax)
カーメロ・スカッフィディ・アルゼンティーナ(tp) トーマス・ラルズ(tb) ジョエル・スコット(key)
アンジェロ・アール(g) モリス・レンティ(g)レイモンド・カルホーン(ds)

アメリカ・ショービズ界を生きた誇りと悲しみ。
マイケルを追悼した兄ティトの思いやりに溢れた唯一無二のライブ・パフォーマンス。

故マイケル・ジャクソンの実兄でジャクソン・ファミリーの次男坊。彼が父のギターを勝手に持ち出し、思わぬ才能を示したことがジャクソン5誕生の始まりだったと言われている。つまり、それがなければ大スター、マイケル・ジャクソンもなかったということだ。独立後はブルースギタリスト&シンガーとなり、ファミリーの中では控えめな印象だが、地に足のついた活動に徹しているのは彼だけかもしれない。そんなティト・ジャクソンがマイケルに捧げたのが、今回の名古屋ブルーノートでのステージだ。 開演前のステージ上には、綺羅びやかなギターが立てられ、スポットライトがあたっている。ギターのヘッドにはマイケルに似合いそうな帽子が被せてある。定刻になってメンバーがステージにあがる。セクシーなコーラス3人を含め11人という大所帯。ティトは大歓声に迎えられて最後に登場。スパンコールの付いた真っ赤なスーツである。セクシーなコーラス隊からギターを受け取り、帽子を受け取り、彼女たちの「OK, Papa T?」の合図でショーが始まる。これぞ伝統的なアメリカン・ショービズ・スタイルだと言わんばかりである。追悼公演とは思えない派手さに笑みがこぼれる。 1曲目から軽快に飛ばすティト。親しみやすい声とよく歌うギター。どちらも線は細いが、キャリアの長さを感じる堂々としたパフォーマンスである。MCで「ハウ・アー・ユー・トーキョー?」と間違えたって許されてしまう、そんなキャラクターもジャクソン・ファミリーの中では彼だけだ。2曲目はシャッフルのブルース「アイ・ガッタ・プレイ」。彼の生い立ちやジャクソン5について歌っている。追悼らしくなってきたじゃないかと思っていると、3曲目に若き日のマイケルのヒット曲「ロッキン・ロビン」。思わず胸が熱くなるが、サウンドはあくまでも軽い。 ライブ中盤。帽子をアフロヘアのカツラに変えてジャクソン5メドレーを披露。「帰ってほしいの」〜「ABC」〜「小さな経験」。ダンス、アレンジは完璧に当時を再現。マイケルのハイトーン・ボイスはコーラスに任せ、自分はギターとコーラスに徹している。メドレーからバラードの名曲「アイル・ビー・ゼア」へ。ティトは黙祷するように、そっと目を閉じる。 この日のライブには、至る所にマイケルへの思いが込められている。クライマックスのダンスナンバー「シェイク・ユア・ボディ」では、あの怪物アルバム『スリラー』に登場するアレンジを引用して観客を総立ちにさせた。最後まで、ティトは観客と一緒に“マイケル”を存分に楽しむ道を選んだ。純粋な“兄としての追悼ライブ”のやり方だったのだろう。マイケルにとって、ジャクソン5時代の思い出はツライものばかりと伝えられることが多いが、決してそればかりではなかっただろう。今日のティトのステージを見てそう感じた。なんせ、閉じこもりがちで孤独だったマイケル少年も、ティトにだけは心を開いたという。やはり、こんな追悼ライブはティト以外には出来なかっただろう。

SET LIST
01. JAMMER STREET
02. I GOTTA PLAY
03. ROCKIN' ROBIN
04. HOOCHIE COOCHIE MAN
05. CALDONIA
06. DAWWG
07. SCRATCH THAT I TELL
08. JACKSON 5 MEDLEY I WANT YOU BACK〜ABC 〜THE LOVE YOU SAVE〜I'LL BE THERE
09. JACKSONS MEDLEY HEARTBREAK HOTEL〜SHAKE YOUR BODY 〜DANCING MACHINE
10. T-BONE -ENCORE


date:2010.7.21 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI
photo by Yuiko Kano

Natalie Cole

ナタリー・コール(vo) ゲイル・デドリック(MD,key) ジョシュ・ネルソン(p)
アレックス・アレッサンドローニ(key) ブラディ・コーハン(g)エドウィン・リヴィングストン(b)
ロバート・ミラー(ds) リンゼイ・ジャクソン(back vo) イヴェット・ミッチェル(back vo)

女王の復活を見た!
亡き父とのコラボレーションを超え、新しいナタリーが帰ってきた。

大病を患いニューヨークで療養生活を続けていると伝え聞いていたので、今回のライブも期待が半分、心配な気持ちが半分だった。会場には同じ思いを共有する180人の観客。だが結果は期待以上だった。現われたナタリーの表情は明るく、身体もスリムに鍛え上げられている。手をふる姿を見ただけでも完全に復調していることが分かる。 1曲目は「It's All Right With Me」。声質が少し変わったように感じる。R&B色が薄れ、カーメン・マクレイのような枯れた印象に近い声だ。だが声量はタップリ。高音もヌケが良く、完璧に天をとらえている。万感の思いを噛みしめる観客とは対照的に、ナタリーはリラックスして久々の名古屋を楽しんでいる様子。MCでは何度も「だって名古屋は5年ぶりよ、5年ぶり!」と嬉しそうに話した。父ナット・キング・コールゆかりの名曲「Smile」、「Mona Lisa」などを次々に披露し、極めつけは在りし日の父の映像とデュエットした「Unforgettable」。アンコールには、デビュー直後の東京音楽祭でグランプリを受賞した曲「Mr. Melody」を選んだ。日本のファンにきっちりと完全復活を報告したかったのだろう。 それにしても、これほどまでにゴージャスな本物のジャズが楽しめることが嬉しくてしかたない。ブルーノートが名古屋にあってよかった。


date:2010.5.25 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI
photo by Yuiko Kano

The Manhattan Transfer

Cheryl Bentyne(vo) Tim Hauser(vo) Janis Siegel(vo) Alan Paul(vo)

ジャズをショーアップし、アメリカのポップス界を席巻した
ベテラングループが見せた貫禄のステージ!

キャリアにして彼らはまだ挑戦を続けているのだ。平均年齢60歳超。たしかに切れ味は30年前に敵わないが、複雑なハーモニーを難なく重ねる名人芸には圧倒される。2曲目はラテン、3曲目はボサノヴァ、会場は次第にヒートアップ。4曲目には定番の4ビート曲「ユー・キャン・ディペンド・オン・ミー」が登場。彼らの十八番だ。待ってましたとばかりに歓声があがり、口笛が鳴った。サウンドや動きに無駄がなくなった分、むしろ以前よりも躍動感が増している。「エアメール・スペシャル」、「ソウル・フード」、そして「バードランド」といった代表曲が次々と披露され、本編の1時間はあっという間に終了した。アンコールに選ばれたのは新作からの曲「フリー・サンバ」だ。ファンにもまだ馴染みの薄い新曲だが、多くの客がいてもたってもいられず席から立ち上がり、4人と一緒に踊った。人気に火が点いてから30年経つが、時代に関係なく4人のハーモニーには観客を奮い立たせるパワーがある。まだまだ、この先も元気に我々を楽しませてくれることだろう。ライブ後の帰り道。なにやら励まされた気分で足取りが軽くなった。そんなライブだったのだ。


date:2010.3.24 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI


Booker T. of Booker T. and the MGs

ブッカー・T・ジョーンズ(org,g,vo)トロイ・ゴンイー(g)ヴァーノン・ブラック(g)
ジェレミー・モーゼス・カーティス(b)ダリアン・グレイ(ds)

グラミー賞の受賞直後となった記念すべきライブ。
ボーダーを越える大御所オルガン奏者の愛に包まれた奇跡の90分間…。

開演前から会場には、なんとも言えないハッピーな空気が流れていた。それはそうだ。3日前にグラミー賞を受賞した男が、手を伸ばせば届くような距離で私たち名古屋のファンに向かってプレイしてくれるのだから。ブッカー・Tは、このライブの3日前に最新アルバム『ポテト・ホール』でグラミー賞の「Best Pop Instrumental Album」を受賞したばかり。幸運にも受賞後初のライブがここ名古屋ブルーノートとなったのだ。祝福ムードに包まれてライブが始まる。いつも笑顔のブッカー・Tだが、この日はいつも以上に白い歯を見せている。楽しいライブになりそうだ。 愛器「ハモンドB3」を鳴らして滑り出しも快調。Booker T. & the M.G.'s時代の大ヒット曲「グリーン・オニオン」やアルバート・キングの「ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン」で会場を温めた後は、日本のアイバニーズ製のギターに持ち替えてビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」を披露。不慣れで危なっかしいギター・ソロに自らスキャットを被せて会場を沸かせる。サポートのトロイ・ゴンイーのボトルネック・ギターもアメリカ南部の良い味を出している。続く曲も南部色が強い。70年代にアル・グリーンが発表した「テイク・ミー・トゥ・ザ・リバー」。サザン・ロック風に料理されたこの渋いナンバーに若いドラムのダリアン・グレイがラップで絡んでいく。これが絶妙である。みんな演奏は粗い。よく聴くとミストーンだってある。けれども、ひとつにまとまると完璧な音楽に仕上がっている。ひとつも無駄な音がないのだ。まとめているのは、ブッカー・Tのオルガンである。彼はまるで天才ブレンダーのようだ。演奏は、いつの間にかヒップホップ風のタテノリに変わっている。たまらずに席を立って踊りだす人も出てきた。 終始笑顔が溢れる楽しいライブだったが、涙が込み上げる切ない場面もあった。一度目はオーティス・レディングの「ドック・オブ・ベイ」。オーティスが飛行機事故で亡くなる3日前までレコーディングしていた曲である。ブッカー・Tも、そのレコーディングに参加している。オリジナルにも登場するお決まりの口笛を「みんなも出来るかい?」とブッカー・Tが促し、会場一体となって吹いた。観客のヘタな口笛に笑いも起きたが、みんな不慮の死を遂げたオーティスに捧げた。二度目の涙はアンコールの「ホールド・オン・アイム・カミン」。サム&デイヴのヒット曲だがブッカー・Tは、この曲を昨年亡くなった忌野清志郎に捧げるとMCで語った。ハードな曲にノリながら、会場にいる全員が日本のキング・オブ・ロックの顔を思い浮かべていたに違いない。楽しいのに切ない。切ないのに楽しい。ブッカー・Tの手に掛かると音楽も人の気持ちも複雑で豊かな味わいになる。いつのまにか、グラミー賞の祝勝ムードも何処へやら。彼の温かい音楽に包まれ、時間だけがアッという間に過ぎていた。終演後、早くも今年一番のライブになったという観客の声が、あちこちから聞こえてきた。


date:2010.2.4 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI
photo by kano yuiko

渡辺貞夫

渡辺貞夫(as) ケニー・ギャレット(as)
ジェラルド・クレイトン(p)デズロン・ダグラス(b) ジョナサン・ブレイク(ds)

アルト・サックス界のスター二人が対峙した夢のようなライブ…。
時空を超えて甦ったビ・バップの可能性にブルーノートが震撼した。

この日のライブは、渡辺貞夫が自身の原点"ビ・バップ"に挑んだ80分間だった。対峙するのは、28才も年下のケニー・ギャレット。世代が違うふたりのアルト奏者が、それぞれの持ち味を存分に発揮した素晴らしいライブとなった。ハイライトの一曲は、ライブ3曲目の「Moose The Mooche」。ビ・バップの名曲である。本人が「速すぎたね」と笑うほどの超高速演奏となった。ソロの先手はナベサダ。ビ・バップらしい難度の高いフレーズが次々と溢れ出してくる。流石に座りがよい。久しぶりの"ナベサダ・ビバップ"に歓声があがる。後手はケニー。いきなり音数が減る。明らかにビ・バップよりも新しいスタイルのアドリブだ。フリージャズの要素が飛び出したかと思うと、ちょこっと正統なビ・バップのフレーズが顔を出す。この世代だからこそできるユーモアだ。これにはナベサダもニヤリ。ケニーに触発されたのか、ライブが進むほどにナベサダのアルトからも、これまでに聞いたことのないフレッシュなフレーズとリズムが飛び出してくる。この1曲だけを聞いても、今夜の試みが成功したことが分かる。ぜひともこのメンバーでアルバムを作って欲しいと感じた一夜であった。


date:2009.12.9 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI
photo by Chieko Saito

ケイコ・リー

ケイコ・リー(vo,p)野力奏一(key)岡沢 章(b)渡嘉敷祐一(ds)

新作を携えてケイコ・リーが登場。
メロディの美しさと声の余韻が、いつまでも耳に残った。

すでに傑作の誉れ高いアルバム『フラジャイル』の発売直後のライブであった。演奏曲目にも新作からの曲がズラリと並ぶ。1曲目の「朝日のようにさわやかに」は、アレンジ、テンポ、そして歌い方までもが、アルバムに忠実だ。2曲目の「アット・ラスト」も新作からの選曲。いつもの彼女より抑制を効かせて歌っているのはニュー・アルバムの世界観をステージ上で再現するための狙いなのだろうか。情熱を冷静のベールで覆うように歌っている印象を受ける。よく知った曲でもこんなに美しいメロディだったのだと再認識させられた。3曲目の「ワン・デイ・アイル・フライ・アウェイ」から、ラストの「イフ・アイ・クッド」まで一貫してメロディの美しさばかりが耳に残ったライブであった。すぅっと伸びる声の余韻に終始聞き惚れてしまう。


date:2009.10.29 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI

Shiho(Fried Pride)とコジバカポン

Shiho(vo) 小島良喜(p) バカボン鈴木(b) 村上“ポンタ”秀一(ds)

フライド・プライドのShihoが魅せた求心力。
確かな音楽性に裏打ちされたカリスマの力が証明された最高のセッション。

同世代のシンガーならビビッてしまうだろう。強烈な3人を従えてShihoがステージに上がる。何かハプニングを起こそうと企んでいる表情だ。それはこの日の選曲を見ても分かる。@スティービーで始まり、Aマイルスの名バラード「ブルー・イン・グリーン」、Bマイケルの「BAD」、C松田聖子「スウィートメモリー」、そしてDエアロスミスの「ウォーク・ディス・ウェイ」へと続く。こんな曲がこんな順番で並ぶライブなど見たことがない。一見バラバラのようだが、これが違和感なくピタリとはまるから不思議だ。Aでは、小島のバッキングに反応して口笛のアドリブを決め、Dでは難しいエンディングをシャウト一発で見事に軟着陸させる。まるでShihoが指揮棒を振るっているように音が動く。大御所3人を本気にさせるだけでなく、彼女が3人を吸い寄せているのだ。もちろん観客だってそうだ。最後は彼女の指揮で、「クロース・トゥ・ユー」の大合唱となった。本物のカリスマへと成長した彼女のこれからが本当に楽しみである。


date:2009.09.01 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI

Freddy Cole

フレディー・コール(vo, p)カーティス・ボイド(ds)イライアス・ベイリー(bass)ランディー・ナポレオン(g)

旧友に会うような笑顔を見せて、フレディ・コールが姿を現した。温かい観客の歓迎を受けてインスト曲からスタート。「サンキュー」と簡単に挨拶を済ませると、さっそく2曲目から実兄ナット・キング・コールゆずりのシルキー・ヴォイスを披露してくれた。軽快にスイングする「サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー」では緊張でガチガチの若手ランディー・ナポレオン(g)からソロを引継ぎ、「これがジャズだよ坊や」と言わんばかりの見事なプレイを見せてくれた。中盤では兄の十八番「スターダスト」や「枯葉」、ビリー・ジョエルの「素顔のままで」なども飛び出し、会場を沸かせえた。故郷への思いを込めて歌った「サウスサイド・オブ・シカゴ」には涙がこみ上げてきた。きっと彼の声は兄よりも深みがある。それはそうだ、偉大すぎる兄よりも倍のキャリアがあるのだから。次回の来日が今から楽しみである。


date:2009.06.01 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI

ミシェル・カミロ“THE BEST OF MICHEL CAMILO”

ミシェル・カミロ(p) チャールズ・フローレス(b) クリフ・アーモンド(ds)

現代最高峰のピアニストが見せたラテン・ジャズの光と影を、
クリフ・アーモンドが好サポート。

ドラマーが変わると、こんなにも演奏が変わるのかと驚いた。前回(2007年)のブルーノート・ツアーではキューバ出身のダフニス・プリエトが起用され、凶暴なまでに暴れまくったが、クリフ・アーモンドはじつにスマートにこのトリオをまとめた。ソリストには充分なスペースを空け、ここぞという時には信じがたい瞬発力で会場を熱狂に巻き込んだ。「CROSSROADS」ではテンポの変わる4ビートに時折タテノリのビートも混ぜる柔軟さを見せ、超絶技巧で弾きまくるミシェルを好サポート。哀愁のバラード「THE MAGIC IN YOU」ではピアノのカウンターとして非常によく歌い、お馴染みの「TEQUILA」ではピアノと複雑に絡んだ楽しいソロで大歓声を受けた。結果としてラテンを強調した前回のライブよりも、ミシェルの"ラテンの血"が強く印象に残った素晴らしいライブだった。


date:2009.04.08 2nd Stage
text by MITSUO NAKAI

Rachael Yamagata with special guest Kevin Devine

レイチェル・ヤマガタ(vo,p) ケヴィン・デヴァイン(vo,g) マイケル・チャヴェス(g)
オリヴァー・クラウス(cello) ダニエル・カーライル(b) クリストファー・ジラルディ(ds)

エネルギッシュなパフォーマンスとラウドなサウンドは、真のロック・スピリットを感じさせた。

彼女の曲を聴くと、独特なソングライティングに耳を奪われる。しかしライブでは一転、声に耳を奪われた。ハスキーヴォイスで知られる彼女。 写真を見ればわかるように、陽気でかわいらしいごく普通の女の子。しかし、歌声はエモーショナルで実に力強い。 歯を食いしばるように振り絞るその歌声、その姿は、まるで彼女自身も尊敬するジャニス・ジョップリンのよう。 オーディエンスと盛り上がるような音楽ではなく、じっくり聴かせるタイプであるが、歌声に負けず劣らず、演奏も壮大で素晴らしい。 特に、ドラムのジラルディは彼女を後押しするかのようなダイナミックなプレイが圧巻だった。 一気に駆け抜けた75分、会場を出ると冬の冷たい雨模様。でも胸に残る彼女の歌声が、いつまでも暖かかった。


date:2009.02.13 2nd Stage
text by HINOMOTO FUMINORI
photo by カメイ ヒロカタ

PAT METHENY GROUP

パット・メセニ−(g)ライル・メイズ(key)スティ−ヴ・ロドビ−(b)アントニオ・サンチェス(ds)

200人でパット・メセニー・グループを独占。
音楽の神様から頂いた奇跡のライブ!

ステージ上に並ぶ機材の数が尋常ではない。 どうやらメセニーは本気でコンサートホール級の"パット・メセニー・グループ"を、このジャズクラブでやる気のようだ。 いつもの笑顔で現れた彼を大歓声が迎える。1曲目はカウントも適当に、いきなり人気曲の「ハヴ・ユー・ハード」。 音の洪水が一気に押し寄せる。かつて、ライブ・アンダー・ザ・スカイで聞いたあの音圧だ。 観客も負けずにホール級の歓声で応える。2曲目「ベター・デイズ・ナイト」、3曲目「胎動」。 80年代後半の作品が続くのは我々ファンにとっては嬉しい限りだ。 6曲目「ついておいで」のイントロが始まると、そこで会場は一回目のピークを迎えた。 ハードな曲では会場の広さなどお構いなしに吼えまくり、バラードではギターピックの軋む音がスピーカーを通さずに直接聞こえる。 7曲目からあとの事は、もうあまり憶えていない。ラストの「ソング・フォー・ビルバオ」まで一気に駆け抜けた人生最高のライブ体験であった。


date:2009.01.10 2nd Stage
text by MITSUO Nakai
photo by カメイ ヒロカタ

勝手にしやがれ Special Live

福島 忍(tb)田中 和(tp)浦野正樹(b)田浦 健(ts)飯島 誓(bs)斎藤淳一郎(p)武藤昭平(ds,vo)

クリスマスを目前に控えた夜、
オトナな”勝手にしやがれ”にジャズの原点を見た。

初の名古屋ブルーノート公演。スタンディングではない会場で、彼らを見るのは、これが初めての事だ。 どんなライブを見せてくれるのだろうかと戸惑っているうちに開演。いつもは踊り狂っているファンも今夜はドリンク片手にステージを見守っている。お馴染みの曲「ショット・ガン」や「チュニジアの夜」も、今夜は1920年代のエリントン楽団に聴こえる。古き良き不良のジャズだ。最新アルバム『マイ・ライフ…』からの曲も数多く披露してくれたが、過去の曲と比較して格段にモダンになったアレンジが、この会場にフィットしている。活動開始から11年。"勝手にしやがれ"が、こんなにもブルーノートにハマるとは思いもしなかった。感動のラスト曲「夢をあきらめないで」の名演には、アンコールの拍手がいつまでも鳴り止まなかった。


date:2008.12.21 2nd stage
text by MITSUO Nakai
photo by カメイ ヒロカタ

PAT MARTINO TRIO

パット・マルティーノ(g)トニー・モナコ(org)スコット・ロビンソン(ds)

最高峰ギタリストによる衝撃のトリオあらわる!ジャズ・ファンもジャズ・ファンク・ファンも熱狂

とにかく、この日はオルガン奏者のトニー・モナコに尽きる。 "ジャズ度"と"ファンク度"のバランスが良い。 遊び心タップリで、ドラムに煽られるとすぐに興奮してしまうが、決して脱線はしない。 そんなところがコアなジャズ・ファンにも好まれているのだろう。 スタンダード曲の「All Blues」や「Four On Six」では、 印象的な"あの"ベース・ラインを地響きがするほどファンキーに唸らせ、 演奏を前へ前へと引っ張り、会場を沸かせた。 クールな表情でソロをとる御大パット・マルティーノとの対比がじつに面白い。 「パットほどオルガンの事を理解している人はいない」とはトニーの弁だが、 なるほど彼のオルガンのバランスが良いのも、トリオの完成度が高いのも、 すべては御大のコントロールだったのだ。再び来日するときには、必ず仲間を大勢連れて足を運び、大騒ぎしたい。


date:2008.11.03 1st stage
text by MITSUO Nakai
photo by カメイ ヒロカタ


疾風 with special guest 吉田健一(吉田兄弟・弟)

小山内 薫 柴田雅人 永村幸治 柴田佑梨 《ゲスト》吉田健一 (以上、津軽三味線)

“伝統”と“伝承”の狭間で格闘する若きミュージシャン魂の結実を見た。


“吉田兄弟”の健一が流派にとらわれずに、 自由な発想で音楽を模索する“場”として作り上げた有機的なユニットが、この疾風だ。 当然ながら会場の雰囲気もいつものブルーノートとは違う。 張り詰めた緊張感は、数年前にこの会場で見た小沼ようすけ(g)と大萩康司(g)のデュオを思い出させる。 三味線を弾く五人のやり取りには、ジャズにも似たかけ引きと、クラシックにも似た強い意志を感じる。 定番の「津軽じょんがら節」からはトランス音楽と同じ高揚感が、 小山内薫の手によるオリジナル曲「吹雪」からはプログレやクイーンのエッセンスが見え隠れしている。 若き三味線奏者たちの演奏の中に、吉田健一の目論見は見事に表現されていたと言っていいだろう。 あとは、大きな流れとなり、われわれ音楽ファンを巻き込んで欲しい。次回公演にも期待したい。


date:2008.09.05 1st stage
text by MITSUO Nakai
photo by カメイ ヒロカタ

※ライブ写真の無断転載を一切禁じます。